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蟻川工房マフラー

蟻川工房マフラー

2007年12月 鈴木修司
製作地:岩手県盛岡市

 私がこのマフラーに出会ったのはちょうど二年前になります。銀座での出会いでした。銀座四丁目“ギャラリーおかりや”にて、この時期(晩秋)恒例として毎年開催されていた“蟻川工房”の展示会で譲って頂いたものです。

 

 蟻川工房は、岩手県盛岡市郊外にて、原毛の洗いから染めに始まり、手紡ぎ(ホームスパン)、手機織りまで一貫して手仕事にこだわり、たいへん美しく上質な毛織物を製作する日本で有数のホームスパン工房です。かの柳悦考の元で織りを学んだ故 蟻川紘直氏がこの地で工房を構えたのが始まりで、昨年までは蟻川氏の奥様である蟻川喜久子さんが代表として、また今年からは伊藤聖子さんがその座を受け継ぎ、他何人かの織り手と共に仕事を続けています。

 

 私がその展示会に伺った際、蟻川工房の毛織物を初めて触れたわけではないのですが、さすがに展示会となると集められた量が半端なく、様々な色や柄の着尺やストール、マフラーなどに圧倒されたのでした。どれをとってもそれぞれにとても美しく、一点一点を手触りも試しながら、じっくりと眺めていました。そんな中で私が目を奪われたのが、こちらです。

 

 何故かこちらだけがランダムな柄模様に織られ、他とは少し違った雰囲気を醸し出していました。“どうしてか?”と蟻川喜久子さんにお尋ねしたところ、“これは遊びで、息抜きで作ったものなのよ”とのお返事でした。もちろん手抜きということではありません。普段は規則正しい柄のものを中心に製作されているということで、そんな合間にその時の気分で色を差し換えて織ったものが、このマフラーだったのです。したがって色の配置が全くに不規則なのです。そんな気の抜けた柔らかな印象に魅かれ、私はすぐさまにこれを譲って下さいとお願いしていました。大のお気に入りです。

 

 その年の冬はもちろん大活躍し、昨年もヘビーローテーションで着回し、今年もこれから活躍してくれるでしょう。手仕事の品は使えば使う程に味わいが増してきます。こちらもますます美しく軽やかに、肌触りも良くなってきました。これからも長く大切に使うつもりです。

 

 蟻川さんの説明では、ホームスパンは手による仕事の為、繊維一本一本に余計な力が加わらず、毛糸自体が絶妙な強度を持つことが出来ます。したがって毛玉が出てきたとしても、すぐにそれが自然に抜け落ちていくそうです(機械製品では、そうはいきません)。着用する程に余分な糸が抜け落ちて、なんとも言えない軽やかさが生まれ、すっきりとした印象を与えてくれるそうです。