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フォーラムが選ぶ・この逸品

乾漆箸

乾漆箸

2009年10月 大部優美
製作地:福井県小浜市

 何年か前、手仕事フォーラムの集まりで、会員の音楽家K氏が「よい手仕事のお箸はないだろうか」と尋ねていました。その世界のトップランナーで、工芸品の熱心な蒐集家でもあるK氏曰く、よい手仕事の器やグラスを使っていながら、箸だけはなかなか「これだ」というものに出会わない、と。確かに、毎日3度の食事で必ず使うものながら、私自身もそれほどのこだわりを持たず適当なものを使っており、それ以後、よいお箸探しを意識するようになりました。

  昨年の春、手仕事フォーラムとしては初めて、お箸の調査に小浜を訪れました。若狭の塗箸として有名で、全国の塗箸の8割が小浜で生産されているといいます。当然、様々な種類のお箸がつくられているのですが、テレビなどで取り上げられる時には、たいてい金箔やら貝殻やらをゴテゴテと(失礼!)塗った何千円もするようなものがクローズアップされていて、一体誰がこんなものを使うんだろう、というのが正直な印象でした。

 訪ねた塗箸卸のご主人は、出張用の鞄から百種類以上ものお箸の見本を出して見せてくださいました。漆塗りとはいってもピンクやら紫やらカラフルなもの、例の「貝殻と金箔」などがにぎやかに並ぶ中、凛としたたたずまいが目を引いたのが、この乾漆のお箸です。小浜に大小10軒あまりある工房の中で、ただ一人の職人さんにしか出せない、独特の風合いなのだそうです。黒(朱)一色、余計な装飾は一切ない、シンプル・イズ・ザ・ベストの極みです。

 お箸の中では比較的大きめですが、手にしてみると、それほど重たくはありません。むしろ、手によくなじみ、安心感があります。つるつるの塗りと違い、ざらっとした表面が、食べ物を滑らせないという機能も備えています。自己主張しすぎず、和食・洋食どんな食卓にも溶け込みながら、雰囲気を引き締める品格もあり、今ではもう、違うお箸では落ち着かないほど、我が家の食卓に欠かせないものになりました。

 さらに、このお箸の魅力は、手にしやすい価格にもあります。これまでに、結婚する友人や実家の両親に贈ったりもしましたが、一膳千円もしないことを種明かしすると、皆びっくりします。数多ある手仕事の秀作の中でも、特に多くの方に使っていただきたい逸品です。