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フォーラムが選ぶ・この逸品

杉のおひつ

杉のおひつ

2009年12月 指出有子
製作地:岩手県久慈市

 どっしりと大振りで程よい厚みがあり、見るからに頑健。それでいて手に取るとひょいと持ち上がる驚くほどの軽さ。なんのデザイン性も感じない簡素さ、しかしバランスのとれたフォルム。どっしりとした安定感があります。しっかりと締めこまれた箍(たが)は、一体どうやればこれほど堅固に人の手で編めるのかと感嘆するほど。力強さの一方で、そっと削られた縁の丸みに丁寧な仕事ぶりを感じます。岩手県久慈市の山奥でこつこつと杉のおひつを作り続ける久保安志さんの作です。

 過去に林業に従事されていた久保さんが、その確かな選択眼で選んだ天然の岩手杉を、ゆっくりじっくり年月をかけて乾燥させてから加工します。とりわけこのおひつは何十年も乾燥させた素晴らしい木材を使っている、と久野恵一さんのお墨付きです。

 我が家には炊飯ジャーがなく、米は鍋で炊いています。炊きたては米のひと粒ひと粒がつやつやと粒立って最高に美味しいのですが、冷めるにつれ湯気が水になって鍋肌を伝い、底のほうのご飯がべちゃべちゃになってしまうのが難点でした。これを解決してくれたのがおひつです。

炊き上がったご飯をおひつに移すのが、上手に炊けたご飯をさらに美味しくする最後の仕上げ。木が湯気と余計な水分を吸い、ご飯が程よく蒸らされて均一にふっくらします。手軽に圧力鍋で炊いた玄米ご飯も、もっちりと仕上がります。
また、よく乾燥させて緻密になった木材を適度な厚さで用いているため、保温効果もあなどれません。鍋に入れたままだと冷え冷えした冷やご飯になってしまっていたのですが、おひつに入れたご飯にはその冷え冷え感がありません。翌朝になっても乾燥して硬くならず、そのままおにぎりにできるほどふっくら感が保たれています。

 実用の上で格別面倒なことはありません。空になったおひつに水をためて30分ほど置けば、柔らかいスポンジで簡単に綺麗に洗えます。逆さにして水を切った後、ガスレンジの上にでも横倒しにしておけば乾きますので、半年使った現在もさほどカビは出ず綺麗な状態を保てています。また、牡蠣ご飯を入れたら匂いがつくのではないかと心配しましたが、全く気になりませんでした。

 おひつの蓋を開け、つやつやと美しいご飯を目にする度に、幸せで豊かな気分になります。実用性に優れ、使う喜び、生活の潤いをもたらしてくれる逸品です。