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本種子鋏(ほんたねばさみ)

本種子鋏(ほんたねばさみ)

2010年2月 後藤薫
製作地:鹿児島県種子島

制作者:牧瀬種子鋏製作所
(牧瀬義文・牧瀬博文)

 もやい工藝の「手仕事逸品の会」で出会った錆々の鋏。
 小振りで無駄がなく、洗練されていながらもどこか素朴であたたかい。「用の美」を体現したようなきっぱりとしたかたちに心惹かれて、思わず手にとっていました。
 久野さんに聞くと、「それは種子島のすごくいい鋏だよ。大事にしまいすぎて錆ちゃったけど、もうこれをつくれる人も少ない」とのことでした。2度ほど「シャキシャキ」とやってみたら、その気持ちよさに手放せなくなりました。
 でもそのときの私は、まだ「種子鋏」のほんとうの実力には気がついていなかったのです。

 ともかく家に持ち帰って、丁寧に錆を落として磨いてみました。すると鋏は鈍くひかりだし、目釘の下に(本種)(牧)という二つの刻印があらわれました。
 (本種)というのは本種子鋏のこと。(牧)というのは種子島で1000年以上の歴史をもつ、「牧瀬種子鋏製作所」の印です。
 牧瀬種子鋏製作所では、37代目の義文さんと弟の博文さんが、手打ち種子鋏のほとんどの工程を昔の技法そのままに、自分たちでつくった道具でつくりあげます。刃は、軟鉄に鋼鉄をのせてつくる日本刀と同じ製法。ひとつひとつすべて手づくりですから、1日にできるのは、せいぜい数本から10本。
 本種子鋏の特徴は、「ねり」とよばれる刃の独特のくねりにあり、切るときに刃と刃がすり合わされることによって抜群の切れ味になり、その作用は「切るたびに磨く」とも表現されます。
 たしかに鋏の腕の部分を閉じていくと、刃と刃のすり寄りが一点に集中してくるような、他の鋏にはない感覚があります。
 「シュキ、シュキ」という胸のすくような切れ味。刃先から刃元まで、どこでもよく切れますし、先が細く小振りなので、コンマ何ミリといった細かい作業にぴったり。私は手製本をしているので、こういう鋏がほしかったのです。

 中央に支点のあるこの鋏は、鉄砲が伝来したときに、種子島に漂着した明国船に乗っていた中国の鍛冶師から教わったといわれています。
 豊富な砂鉄によって「たたらの島」といわれる種子島には、はるか昔から製鉄技術が存在し、高い技術をもった鍛冶職人がいたからこそ、鉄砲の国産化も可能だったのでしょう。
 このたった4寸ほどの本種子鋏には、種子島の自然風土、歴史、そして刀鍛冶・鉄砲鍛冶の伝統がつまっているような気がします。いつも身近におき、長くつきあっていきたい逸品です。