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館山唐桟

館山唐桟

2012年8月 指出有子
製作地:千葉県館山市

館山唐桟は、千葉・館山の齋藤家が明治時代より織り続けている、縞柄の薄手の綿織物です。そのルーツは南蛮船によりもたらされた、インド周辺で織られた薄くて細い縞模様の「唐桟」と呼ばれた布です。当初は輸入物を裕福な町人が珍重し、やがて川越や桐生など各地で織られ、「粋」を好む江戸庶民の間に広まりました。その縞柄と染め織りの手法を守る、今日唯一の唐桟の機屋が館山唐桟の齋藤家です。

 

私が初めて館山唐桟を目にしたのは、それ目当てで呉服屋の展示会に出かけた時です。様々な織物の集まる会場で、実直で手堅い縞の反物が集まるコーナーは、ほっとする一角でした。そのときに参考出品として展示されていた、色糸が混じり合った複雑でいて美しい色合いの反物が、見れば見るほど素晴らしく、心を囚われ、しばらくその場に佇み見とれていました。そんな憧れの存在であった館山唐桟を、ひょんなことから譲っていただくことになったのです。フォーラムのメンバー数名で一反をオーダーして分け合ったものでした。

 

美しく柔らかな和紙に包まれた反物を、太陽光の下で広げ、思わず唸りました。なんて美しい布だろう、と。顔を近づけて間近でじっくりと織り目を見て、ため息をひとつ。指先で触れ、腕にまとって肌触りを確かめました。肌にまとわりつかないけれど、柔らかくしっとりとした肌触りは、絹の柔らかもののてろんとした柔らかさとも紬のざっくり感とも異なります。

糸の1本1本を見れば、藍の濃淡、白、卵色のみで構成されているのですが、経糸と緯糸の色の構成によって、4色のみとは思えません。その何倍もの広がりを見せるのです。天然染料による染色は館山唐桟の命。白、藍、黄、赤、茶を基調とした色とその濃淡から生み出される縞柄は、実に100種以上にのぼるそうです。また、手織りの綿織物の中でも細い糸を用いるのが唐桟の特徴です。細い糸を用いるということは、切れやすいので気を使うし、太い糸より織るのに時間を費やすので手間がかかるということです。そうして織り上げた後、最後の仕上げとして砧打ちを施すことで、木綿でありながら突っ張らず身に柔らかく添うしなやかさがいっそう増し、絹のような光沢を得ます。このように天然染料による染色(※注)、細い糸(を織る)、砧打ちという大変に手間のかかる仕事が、館山唐桟を「高級綿織物」と言わしめます。木綿でありながら肌触りや裾さばきの良さといった着心地が絹に劣らず、さらに木綿は絹より扱いが楽で気負わずに着られるため、着物をよく着る人には人気が高いそうです。

 

さて、布の良さこそは、見て触れるだけでなく身につけてこそわかるというもの。今回譲っていただいた布は着物には足りないので、まずは帯に仕立てようか、それとも、より気軽に身に着けられる洋装仕立てにしようかという悩ましい問題に直面しています。帯に仕立てれば間違いなく逸品の帯になりますし、気が変われば解いてリフォームも可能です。けれど、着物という間口の狭い世界に留まらず、着物を着ない人でも身に着けられる素敵な衣装にしたいという気持ちもあるのです。着物には1反12.7mが必要ですが、今回のように複数名で生地を分け合えば、高価な生地にも少し手に届きやすくなるという点も見逃せません。きものリフォームの本を見てみると、7mあればワンピースやジャケットが作れます(和服地と洋服地は生地幅が異なるため、通常の洋服のパターンは使えないのです)。

 

なお、本品は齋藤家の縞帳から選んだ縞を、幅を広くして織り上げていただいたものです。当初は紳士用の半袖シャツを仕立てようと考えてのオーダーであったとのこと。縞というよりストライプと呼びたいような、どこか北欧調、でもカツオ縞。私たちには「あ、いいな」と受け入れやすい、身につけやすい縞だと思います。生半可なイメージで柄をオーダーすると痛い目にあうことも多いと思いますが、現代の洋装にあった縞を開発する余地もあるかと思います。取捨選択の末に残った完成度の高い縞を守ることはもちろん一番大切ですが、しかるべき目をもって、現代に即した縞を生み出すことも悪いことではありません。

Sさんが、既にこの生地で紳士用ベストを仕立てられました。

※注 赤い色のみ価格の問題もあり科学染料を用いらざるをえないが、必ず天然染料を重ねて染め、色を落ち着かせているそうです。