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小石原太田哲三さんの口付徳利(クッツキトックリ)

小石原太田哲三さんの口付徳利(クッツキトックリ)

2013年8月 久野恵一
製作地:福岡県東峰村

注ぎ口がついたお酒を入れる容器は、沖縄や薩摩ではカラカラといいます。
熊本小代焼でもカラカラと呼んでいますが、どうもこれは民藝ブームが起こってからのことですから、昭和40年頃からの言い方かもしれません。
小石原や小鹿田では口付徳利と書いてクッツキと呼んでいます。いかにも北部九州らしい端的な言い方です。徳利に口がついているからでしょう。

原型となる容器に雲助と書いてうんすけと呼ぶ大きな口付きの甕があります。大壺や大甕から醤油やお酒などのものを容器に移し替えるときに用いたもので、小さめな口付徳利は一般家庭というより日常の暮らしの道具として多用されるためから、このようなものが発達したのでしょうか。
小石原の古作の中には肩が張って頚がしっかりした一升入れくらいの口付徳利がありますから、これは量りとして瓶に注ぐための容器だったのでしょう。本来ならこの形を小さくして普段使いにしたかったのでしょうが、肩が張り頚が長いものはつくりにくいし重くなります。それでこのかたちになったのではないでしょうか。

今、この口付徳利をつくれるつくり手はそうはいません。小石原では私がこの地を初めて訪れた頃は当たり前にいたのですが、近頃は太田哲三さんくらいしか見当たりません。土瓶、急須などを含めて、袋物の技術は陶工の中でも熟練度が高い仕事です。この手のものをつくれる陶工はそういるわけではありません。

ちなみに今、小鹿田でも見かけるのはせいぜい黒木力さんや柳瀬朝夫さん等ベテランと黒木富雄さん(昌伸君の父親)でなかったでしょうか。小鹿田の近況は、変わった形や伝統から逸脱するようなものづくりもこの頃多く見え始めましたが、ほとんどが皿や鉢で、数年ロクロ仕事を始めた人でも出来る程度のものが中心になってしまっています。それらのつくりや削りや造形の均一性を見れば、熟練度、わかりやすくいえば、上手いか下手かということでしょう。

健全なつくりを伝えていかなければならない状況にここでも落ちいりはじめています。ですから私はこれからそれぞれのつくりの正当性や健全性、熟練度などを述べていきたいと思っております。批判するためではなく、きちんとしたつくり手を育てる手だてになるからと考えています。

この口付徳利に関していえば、哲三さんが群を抜いたロクロ技術の持ち主で、どうしても重たくなりがちな陶質のものをこれほど小さく軽く引ける技は彼しかおりません。更に、最も大事な注ぎ口や、すくっと立った頚、縁の口回りの折り返しの取り方などを見るとよくわかります。ともすれば模様や釉薬の面白さに眼がいきがちですが、このようなきちんとした仕事の先に、焼き上がりの面白さや釉薬変化、発色の美しさなどが重複して優れた製品、いわゆる民藝の品がつくり上げられるのです。

昨年秋の登り窯で焚かれたものを哲三氏の取り置いていた倉庫から見つけ出し、選ばせていただいたものです。