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フォーラムが選ぶ・この逸品

土器の蚊取線香入れ

磨き土器の蚊取線香入れ

2013年11月 鈴木修司
製作地:茨城県桜川市

この磨き土器の“蚊取線香入れ”を初めて見た時、何とも愛嬌ある顔つきに目を奪われ、すぐさま手に取ったことを覚えています。原型は沖縄の“アラヤチー(荒焼き)”にあるそうですが、アラヤチーも釉薬を掛けずに低火度で焼成された原始的な焼物です。
当初はただ愛らしい見た目に惹かれていましたが、製作者である横田さんに何度もお会いした今は、横田さんの茨城弁バリバリの可笑しいお喋りと、作業場前のべったりと靴底に張り付く分厚く重い土(あたり一帯がすべて粘土質なので)、そしてたいてい頂ける奥様手製のそれは美味しい“揚げ餅”を、ついつい思い出しては笑みを浮かべてしまうものです。
“横田 安(やす)”さんは、この道に入って50年超で、自ら瓦を積んで作った窯を使い続けて30年になるそうです。昔は水甕や植木鉢など日常の大きな道具類が主流でしたが、今は注文を受ければ大小様々なものを作ります。原料は自前の田んぼで掘ってきた土を使い、黒く仕上げる為に鉛筆芯と同じく顔料と松煙を混ぜた粘土を型や轆轤で成形し、水分が残っている段階で竹ベラや石などで丹念に磨き、黒く美しく光る土器に仕上げます。通常の土器(茶色の)であれば800℃ほどでよいものを、この黒を出す為に1000℃ほどで屋根瓦と同じ銀色になるまで焼成し、しばらく冷ました後で燻し焼きにします。
そんな手間の掛かる仕事を他所に、この蚊取線香入れは横田さんの陽気な人柄をそのままに感じさせてくれ、これほどにモノと製作者の印象が重なるものはありません。美しもあり、心を和ませてくれる逸品です。