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坂本茂木さんの薄青釉藁引き 大湯呑み

坂本茂木さんの薄青釉藁引き 大湯呑み

2014年12月 今野昭彦
製作地:大分県日田市

日用雑器の作り手ながら芸術的なセンスを持ち合わせる。
それが小鹿田の坂本茂木さんである。
この大湯呑みはその茂木さんが作った物。
形自体は濱田庄司型で小鹿田でもよくある形。
しかし適度な厚み、口縁の反り、腰の膨らみ、バランスの良い高台など、
同じような形は他にいくらでもあるが、茂木さんの物は何かが違う。

久野さんによると、この湯呑みはとても強い火で焼かれているとのことだ。
非常に固く焼きしまっている。
指で叩くとキンキンと高い金属質な音がする。

焼物には酸素を含む状態で焼成される「酸化焼成」と
酸素不足で焼成される「還元焼成」があるが、こちらは酸化焼成。

胴が含まれた釉薬をかけると緑色になるが、全体的に黄味がかっており、淡い緑色となっているのは酸化焼成の特徴である。
内側も黄ばんでいる。
この抹茶のような色具合がとても良いと思うが、よくよく見るとその色は均一では無い。
濃い色と淡い色が混ざり合い、渋みのある表情を持つ。
それは決して作為的なものでなく、登り窯で焼いた際の火の状態などで
起こる偶発的なものである。そこに面白みがあるのだ。

視点を装飾に移す。
表面に無造作に引かれた線は、藁引き(わらびき)という装飾技法である。
刷毛引き(はけひき)と言っても良いが、茂木さんの場合は「黍(きび)」を集め、
藁引きの道具として使っていたようだ。
胎土の上に化粧土をかけ、それからその「黍(きび)」を用いて線をひく。
釉薬の上から線を引いているのではなく、釉薬は線を引いた後にかける。
そうすることにより、焼いた際に線が強調されすぎず、ところどころに線の濃淡が表れ、自然な感じになる。
特にこの湯呑みはその線の感じが良い。

 

次に高台を見てみる。

高台の造りは作り手によって様々である。
高台の幅が広い物もあれば、狭いものもある。
厚いものもあれば薄いものもある。
湯呑みでは広すぎたり、あまり厚みがあると不格好になってしまう。
また、内側にえぐられる角度も緩いとぼやけた感じになってしまう。
この高台はやや荒れもみられるが、
それらのバランスが絶妙な物が、茂木さんの作る物だ。

 

またその高台を横からみると斜めにカットが入っているのが分かる。

これは見た目を意識しているものかと久野さんに聞いてみると
そうでは無いと言う。
そうすることで多少でも軽くなるということだ。
では、軽くすることを意識しているのかと聞くとそれも違うと言う。
そういうものなのだ。無意識にやっているのだ。

言わんとしていることはお分かり頂けると思う。
つまり作品作りのためにディティールに凝っているのとは分けが違うのだ。

 

実際にお茶を飲んでみた。

男性の私にも大きい物なのだが、口縁の下あたりにくびれがあり、
そこに指をひっかけられるので思ったより持ちやすい。
そして何よりも口あたりが良いのだ。
おそらくは口縁の丸みや適度な厚み、適度な反りの角度が良いからであろう。
それを自然と作ってしまうのが茂木さんである。

 

最後に、この大湯呑みは私が仙台手仕事フォーラムで手に入れた物である。
久野さんがお寿司屋さんで出されるような大きめの湯呑みをと、坂本茂木さんに依頼して
作ったもので、それを今から15年ほど前に仙台林香院の住職、故門脇允元氏が久野さんから購入。
それが今回仙台手仕事フォーラムで出品された。

実は、坂本茂木さんは私がフォーラムに関わる直前に引退されている。
そして、自分は新作のほうばかりに目がいっていたということもあり、
茂木さんの物は一つも持っていなかった。
しかし小鹿田のことを知るにつれ、今現役で茂木さんを慕う柳瀬朝夫さんや坂本浩二さん、
その他の陶工によって、その形は脈々と引き継がれていることが分かってきた。
そして茂木さんのことをもっと知りたいと思いはじめていた。
そのため茂木さんの物を何とか手にしたいと思っていたところであった。

 

仙台手仕事フォーラムで、はじめ自分はこの湯呑みがあることに気がつかなかった。
しかしフォーラムメンバーの方が、今野さんが持っていたほうが良いのでは、と渡してくれた。

 

感謝。