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プレス掲載

倉敷ガラス 小谷真三自選展によせて

倉敷ガラス 小谷真三自選展によせて

日本海新聞掲載
2009年4月24日

「温かく柔らかなガラス器」

ガラスの、その透き通る清廉な美しさはいつの時代も人々の憧憬の的だった。近代になって製造技術が進歩し、機械で容易に大量生産ができるようになり、その“もの”への憧憬が薄れたように思える今、小谷真三さんの作るガラスの器を見るとき、ハッと何かを思い出させられるような感覚に打たれる。そうか、これがガラスというものだったのか、という感覚。小谷さんのガラスは、温かく、柔らかい。そのコップに注がれた飲み物を、両手のひらでそっと包んで、大切に、すっかり最後の一滴まで飲み干したくなる。そんな幸せなガラス器が、果たして今、当たり前にどこにでもあるだろうか。

小谷真三さんは昭和五年岡山県生まれ。輸出用のクリスマスツリー飾りのガラス玉製作の仕事で吹きガラスを習得し、昭和三十九年、倉敷民藝館の故・外村吉之介初代館長をはじめ民藝運動の有志と出会ったことから、実用的ガラス器の製作を始めるようになる。すでに薄く冷たい工業ガラスが市場を席巻していた当時、民藝館で見るメキシコのガラスのようなたっぷりとして温かみのあるガラス器を、民藝関係者たちは日用品として切望していた。彼らの眼に小谷さんのガラスは、健康で美しいこれからの“民衆的工藝”の希望として映った。しかし細かな製法が謎のままだった吹きガラス器を手探りで作っていくことは容易ではなく、地にしっかりと立つ、ということすら最初は大きな壁となって小谷さんの前に立ちふさがった。「真面目なものを、健康で、無駄がないものを」という小谷さんの一途な努力により徐々に形となっていったそれは、「倉敷ガラス」と呼ばれ、やがて多くの人に愛されるところとなる。折しもアメリカでスタジオ・グラス(ガラスの作品製作の工程をすべて一人の作り手のみで行うこと)運動が盛んになり始めた頃。小谷さんは期せずして、日本におけるスタジオ・グラスのさきがけとなった。

小谷さんが「倉敷ガラス」最初の製品であるガラスコップを作り始めて、今年で四十五年。倉敷ガラスと小谷真三の名はどうしようもなく人々に知られるようになったが、一人のガラス職人としての小谷さんの仕事ぶりは変わらない。故・外村氏に教えられた「威張らない」製品作りは、常に小谷さんのテーマのひとつであり続けている。今も、倉敷市粒江にある工房で黙々と製作する日々だ。

このたび鳥取民藝美術館では、特別展「倉敷ガラス 小谷真三自選展」を開催する。小谷真三さんご自身の所蔵品による初めての本格的規模の自選展となる本展には、未公開作品も多数出展される。倉敷ガラスと小谷真三さんの軌跡をたどるうえで、またとない好機と言えるだろう。いつもは陶器や木工品を展示することの多い鳥取民藝美術館が涼やかで柔和な倉敷ガラスの輝きに満ちた空間へ変わるこの初夏を、ぜひとも多くの方に楽しんでいただきたい。

また、今回の特別展のオープニングイベントとして、企画・構成を手がけた地域手仕事文化研究所の久野恵一さんによるギャラリートークが25日に、小谷真三さんご本人を講師に迎えた公開講演会が26日に開催される。日本全国の手仕事をご自身の足と眼で発見してこられた久野恵一さんは、小谷さんとも親交が深い。常に本当に美しいものを求め、選んできた久野さんによる生きた解説。そして作り手自身によって語られる、美しいガラスをめぐる日々と出会いのこと。もちろんただ存在するだけでそのガラスの器は美しいが、できることならこの機会に両氏のお話を体験して、ふたたび器と出会っていただきたい。微妙な光の揺らぎや内包する泡のひとつひとつを、あなたの目はより繊細にひろって、それらを一層愛おしく感じることだろう。一人でも多くの方に、そんな鮮烈な美的体験を味わっていただきたいと願う。

(鳥取民藝美術館学芸員 前田環奈 )

特別展「倉敷ガラス 小谷真三自選展」

鳥取民藝美術館で4月25日(土)より8月16日(日)まで
※同展にあわせて隣接するたくみ工芸店ギャラリーにて「鳥取民藝美術館小谷真三自選展記念第一回即売会」を開催 4月25日〜5月11日

【関連イベント】

  1. 4月25日(土)…久野恵一氏(地域手仕事文化研究所、同展企画・構成)ギャラリートーク
    11時〜、14時〜(二回開催)
  2. 4月26日(日)…小谷真三氏公開講演会
    13時30分〜15時、於・とりぎん文化会館第一会議室、入場無料

お問い合わせ
鳥取民藝美術館
鳥取氏栄町651/電話(0857)26-2367