手仕事フォーラム〜手仕事の品をとり入れた生活の素晴らしさを

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プレス掲載

神奈川新聞 「民藝」息づく生活を

神奈川新聞 「民藝」息づく生活を

2010年1月25日(月)神奈川新聞文化欄掲載

■鎌倉の久野さん 37年の活動

神奈川新聞 文化欄 20100125

疲弊する手仕事の現場

人の手で作り出された、生活に息づくカゴや器・・・いわば「用の美」を宗教思想家の柳宗悦(1889〜1961年)は「民藝」と名付けた。こうした優れた手仕事を残していこうと、37年間にわたって全国の産地で調査、発掘してきたのは鎌倉市佐助にある民藝店「もやい工藝」店主の久野恵一さん(62)。だが、各地で目にしたのは疲弊していく手仕事の現場だった。(柏木智帆)

 「元気のある仕事だ」「力があるね」。これが優れた民藝品への久野さんの評し方。「外にはじけ飛びそうな」編み目のかご。「釉薬が嫌みなく自然に流れている」焼き物の器。生きた美しさに手仕事の妙があるという。
・庶民の実用品
 店内に並ぶつぼや皿などはひっそりと呼吸をしているようだ。いずれも久野さんが各地を飛び回り集めたもの。40都道府県にいる約500人の作り手とかかわり、店にいるのは1年のうち4ヶ月ほどという。
 宗悦が美を見いだした民藝は、すべて使い込まれたものだった。「民藝は使ってこそ美しく、暮らしに根付いている。民藝美は、人間社会のあり方まで説いている」と久野さん。多くは庶民の実用品だ。
 民藝には、その土地の自然素材が使われる。陶器では土質や使い方、釉薬などが地方ごとに異なる。素朴で健全。そう感じるのは気候風土と作り手が一体となって生み出されるからだ。
・偽りのブーム
 宗悦の生誕120周年を迎えた昨年、民藝が若い世代を中心にブームだと一部メディアが伝えた。雑貨や衣料品を扱う、ある大衆商品が「実用性やシンプルなデザインから民藝に通ずる」と主張する批判家もいた。
 だが久野さんは、これを真っ向から否定する。
 「実用性、簡素性、機能性。そこが民藝と一致しているというだけ。無機質で、人間の心から生まれたぬくもりがない。デザインは作り出すものだが、民藝は生活の中から自然に生み出されるもの。だからこそ伝統技術、地域性に左右されてきた。民藝には作り手、担い手の思いが凝縮されているんです」
 また久野さんは「ブームなどはなかった。むしろ下火だ」と憂える。手仕事の品を置く若者向けセレクトショップもあるが、売り上げはわずか。「各地の民藝店も廃れている」と嘆く。昭和40年代の「民藝ブーム」も、民藝が支持されたのではなく、高度経済成長を背景に需要が一時的に増えただけとみる。
・アレンジして
 民藝の中には生活様式にそぐわない品もある。「使い道がないと作り手は飯が食えず、いい仕事でもやめてしまう」だからこそ、作り手を探し当て、実用性の中にある美しさを生かしつつ、現代向けにアレンジしてもらう。伝統的な仕事が継承されるには欠かせない活動だ。
 民藝品を取り入れた生活の味わい提案し、広めたい—。久野さんは、そんな思いから2002年9月、全国の作り手や賛同者を集めて「手仕事フォーラム」を立ち上げた。
 賛助会員は現在300人ほどに達した。職業は飲食店主や建築家、学芸員、ライターなどさまざま。民藝の考え方を取り入れたライフスタイルを提示することは、例えば住宅など建造物のあり方、街並にもかかわってくる。「それぞれの職業の人が仕事に民藝の考え方を取り入れ、転化させてほしい」
 商業主義的な大量消費社会に迎合せずに、心地よい手仕事の品を慈しみ、潤いのある生活を取り戻す。久野さんの民藝運動には、時代にのみ込まれない一貫した姿勢がある。


くの・けいいち 武蔵野美術大在学中に民俗学者の故宮本常一さんに師事。日本各地を歩き、松本民藝家具の創始者、故池田三四郎さんとの出会いをきっかけに民藝へ傾倒していく。25歳の時に都内で「もやい工藝」を始め、北鎌倉の店舗を経て25年ほど前から鎌倉市佐助に店を構える。地域手仕事文化研究所主宰。「手仕事フォーラム」代表。日本民藝協会常任理事。「もやい工藝」店は、鎌倉駅西口から徒歩13分。電話0467(22)1822。