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手仕事調査:関東地方

伝統的な素材、技術でつくられる「厚紙の至宝」/烏山和紙(程村紙)

伝統的な素材、技術でつくられる「厚紙の至宝」/烏山和紙(程村紙)

2013年4月20日
訪問地:栃木県那須烏山市

北関東手仕事調査1日目の最後の訪問先、那須烏山市郊外にある「和紙の里」は小雨に煙っていた。ここは「烏山和紙会館」を運営する福田製紙所の工房であり、紙漉き見学や体験ができる観光スポットでもある。私たちが訪れたとき、現社長で県指定伝統工芸士の福田長弘氏さん(45)は、地元那須烏山で行われる伝統行事「山あげ祭り」の山車の下張りに使う紙を漉いていて、長弘さんの妹で仕事をともにしている博子さん(43)が案内をしてくださった。

●伝統を守る福田製紙所
烏山和紙の歴史は古く、奈良時代、正倉院の書物にすでに「写経料紙を産出す」という記述があったという。鎌倉時代には、現在行っている紙漉き法の基礎が確立。那須奉書は全国に広まった。
江戸時代には烏山藩主の薦めもあって農家の副業として紙漉きが盛んになり、人口増加による江戸の需要拡大を、烏山が一大和紙産地としてまかなっていた。明治時代になると、全国の選挙人名簿および選挙投票用紙に烏山和紙が採用されるなど、実用紙として生産の最盛期を迎えた。
こうして1300年以上にわたりつくられてきた烏山和紙だが、昭和半ば以降、機械製和紙や洋紙の増産により状況は激変。ピーク時に1000軒近くいた烏山和紙関係者は次々と廃業し、現在は福田製紙所1軒が受け継がれてきた伝統を守るのみとなっている。 

●厚紙の至宝「程村紙」
福田製紙所がつくる和紙で特筆すべきなのが、「程村紙」(ほどむらし)という烏山和を代表する厚紙である。強靱で永久保存も可能なほど保存性にすぐれ、それでいて和紙のしさと温かみを備えていることから、厚紙の至宝≠ニ称される。昭和16年に紙問屋から紙会社に転業した福田製紙所が現在まで絶やさず守ってきた貴重な紙で、昭和52年、国の択無形文化財に指定された。
昭和30年代以降、この福田製紙所の生産の大半を占めてきた程村紙が、卒業証書用紙である。栃木県内ではすでに30年以上も前から県立高校をはじめ、地元の小中学校で使用されてきた。さらに最近では、この紙ならではの強さや風合いが評判を呼び、東京や神奈川の高校、大学からの注文も増えた。現在、年間につくる総数は、約150校分25000枚にものぼる。もちろん、小規模工房での手づくりのため、毎年9月〜翌年2月までの半年間は、スタッフ総出でこれにかかりっきりとなる。
それ以外では、版画家や日本画家といった作家による特別注文に応えたり、強制和紙の小物や壁紙、照明器具などを中心に雑貨やインテリアの世界へ進出したりと、新しい用途開発も模索している。

●烏山和紙の命、原料の那須楮(なすこうぞ)
烏山には、和紙(程村紙)をつくるうえで守らなければならないルールがある。それは、主原料に「那須楮」だけを使うこと。那須楮は繊維が短く丈夫で、独特の光沢を放つ特殊な楮だ。しかし現在では、茨城県大子町周辺地域でしか生産されていないのが実状で、越前や美濃など他の国内和紙産地へも出荷されているほど信頼性の高い素材である。

●那須楮が和紙になるまで
この那須楮が完成品の和紙になるまでには10工程以上、期間にして1週間ほどを費やす。まず、皮をはいだ原料を水に漬けてやわらかくしてから不純物を取り除く。その皮を、大きな釜で4〜5時間煮る煮熟(しゃじゃく)という工程を経ると植物繊維以外のものが溶け、繊維だけが抽出できる。その繊維を流水にさらしてアク抜きしたあと、再びチリなどを丁寧に取り除く。それをビーター(機械打ち)にかけ、または手打ちで、さらに叩きほぐして綿状の繊維にする。これで繊維の準備が整った。
できた繊維を「漉き舟」という大きな水槽に入れ、トロロアオイからつくった粘液(ネリを加え、「ザブリ」という道具を使って均等にかき混ぜる。原料の繊維が舟の中で均一に調合されたら、次はいよいよ紙漉きの段階である。
紙漉きには、漉き簀(す)を敷いた「漉き桁(けた)」に水を流す、揺するを繰り返しながら漉いていく「流し漉き」と、水を溜めて水が落ちていくのを待つ「溜め漉き」がある。
程村紙はその中間の「半留め漉き」。こうした漉き方の違いによって紙の表情も変わる。漉いた紙は丁寧に重ねられ、ひと晩放置して水を切り、翌日1日かけて圧搾機でゆっくり水を絞る。その後、乾燥台または天日で乾かす。最後に良品と不良品をより分け、必要なサイズに断裁して仕上げると、一連の制作工程が終了。その先の印刷や加工にまわされる。

雑誌『工藝』49号(1935年)の本紙に使われた烏山紙

実は、日本の多くの和紙産地が国産原料を使っていないという傾向にあるなか、福田製紙所は那須楮の使用を頑なに守り、丁寧な手仕事で烏山和紙の存続を死守している。今後も、その潔いほどの姿勢と現状の生産態勢が断たれることのないよう願うばかりである。

 

手仕事フォーラム会員 石原恵子