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手仕事調査:番外編

ノゾミのインド調査紀行・西インドの水瓶

ノゾミのインド調査紀行・西インドの水瓶

2011年11月中旬
訪問地:インド西部

インドの西部、ラジャスタン地方は乾燥した砂漠地帯に近く極端に雨が少ない地域のため、ため池や灌漑用水が多く、この地域の人々にとって水は大切なライフラインです。
インドの中でも一番大きな州の割に発展が緩やかで、農業従事者が多く穀物の交易などで栄えた町には昔ながらの手工芸や伝統が色濃く残っています。このあたりは11月頃から涼しくなり、今がようやく過ごしやすい季節です。夏は体感温度が50度近く上がるので、今の時期はインドの人々も楽しげに生活し、リラックスしています。

11月中旬より1ヶ月ほど「旅と仕事」をテーマにインドに滞在しました。その間にインドの人々の生活に沿った手仕事の調査ができればいいなと思い、ラジャスタン地方で以前から気になっていた水瓶を調べてみました。

ラジャスタンに限りませんが、特にインド西部の町や村を通ると店先の涼しい場所に置いている素焼きの水瓶をよく見かけます。民家を訪ねると、ほとんどの家庭の台所には大切そうにこの瓶が置いてあり、通常飲み水が汲んであります。家族の皆が飲料水として、生活用水として毎日使うものです。

素焼きは多孔質で通気性があるために表面から気化した熱で中の水が冷やされます。沈殿物は下に沈み底に溜まります。気化できずに溜まった水は丸い裏底に集まり皿に落ちる、口は適度に狭く厚く作ってあり、コップを持った手が丁度入る大きさ。皿をかぶせておけばゴミも入らない、と言ったように機能的になってもいます。
今でも水道の通っていない村では共同の水汲み場に汲みに行かねばならず、この瓶がとても重要な生活の必需品の一つになっています。
以前から、各家庭を訪問する度に、いかにも大事にされている瓶のひんやりした水が、なにか特別な飲み物のような気がしていました。僕にとっては何か神聖な飲み物に思えてしまいます

水瓶以外でも素焼きの容器はインドの人々にとって生活の必需品でもあります。小さく平たいサイズは直火にかけてカレーを作る事もありますし、割れた水瓶の底部を使い、チャパティと呼ばれるパンを焼いたりもします。レストランではテイクアウトのヨーグルト容器は使い捨ての素焼きカップです。

祭りではこのように蛇口をつけて水を振る舞います。コップも素焼き。

 

作り手の村に行って話を聞いてきました。

生活必需品なので、インドの素焼き職人は比較的簡単に見つかります。そしてそれぞれ作り方も似ています。

ロクロは石をくり抜いた大きな円盤です。粉挽きの臼をひっくり返したもので100kgあります。これを地面に埋め込んだ軸の上に乗せ、ぐらぐらと不安定なまま回転させます。
棒で引っ掛けてグルグルと回していき、独楽のように遠心力で回転が安定したところから、土器の形成に入ります。
僕と話をしながら、あっと言う間に壷を作り、フタを作り、ピタっとサイズが合います。さすがです。

 

 

あの水瓶はどうやって形成されるのだろうと思っていたら、ロクロで厚めの壷を形成し、少し乾燥させたあと、内側に大理石の当て具を当てて、外側から板で叩いて引き延ばしていました。焼き上がった水瓶の厚みは2mm程しかないので、よくあんなに薄く丸くできるなと関心します。マリやブルキナファソなどアフリカの壷よりも、もっと硬質で薄いのは土に鉱物でも含まれているのでしょうか。

 

叩く作業は息子さんが担当していました。さらにお孫さんも磨く作業。インドでは、こうして何世代にも渡って技術が継承されていきます。

この地域では一般的に、縄文土器のように地面で焼く「野焼き」や燃料で覆い被せて焼く「覆い焼き」で作られますが、こちらの作り手さんは窯を自分で作っていました。燃料は主に牛糞とのことでした。じっくり焼けて、温度が急激に上がらず良いといっていました。

 

用途によって様々なかたちが出来上がります。

帰国後、久野さんにお話を伺うと、作り手の最初の写真を見ただけでこう言われました。素焼きはだいたいが700〜900度で焼かれる。対して陶器は1100〜1300度。つまり陶器を作る文化には焼く温度を上げる高度な技術がある、その燃料がある、このような温度は簡単には作り出せない。だから世界的にみても稀少である。対して素焼きを普段使いする文化は、気候が高温乾燥しているはずである。なぜならば水分が抜け易くなければ、焼いてもたちまち割れてしまう。歩留まりが悪ければ生産しても業にならない。世界にこういった気候と生活が密接に関係している地域は多いだろう。そして燃料、手間、技術が比較的容易であることも予想できる。

なるほど、だからインドでは素焼きが普段使いされ、大切に使われつつも使い捨てに近いのか。使い捨てしても再び原料にもどるシステムもすごい。
一枚の写真から全て見て来たかのような久野さんの言葉に、色々なことが見えてきました。もっと現場を見て、もっと勉強しなければと思いました。

 

手仕事フォーラム 波賀望