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手仕事調査:山陰・山陽地方

中井窯

中井窯

2005年5月11日
訪問地:鳥取市河原町中井

 

鳥取県庁の知事室に・・・地産地消課の部屋に・・・そして、私たちの食卓に・・・。因州中井窯の器が、しっくりと溶け込んでいる。日本陶芸展で優秀作品賞に選ばれた坂本章さんってどんな人?どんな所で育ったの?風薫る5月のある日、因州中井窯を訪ねた。「いらっしゃい!」坂本さんは、そんな大きな賞をとってもけして偉ぶったところのない、いつもの優しい笑顔で迎えてくれた。

 

 

坂本章さんって、こんな人

 

その一「河原町中井が大好き」

 

 日本一小さな県、鳥取県。その中の鳥取市河原町(去年10月に合併で鳥取市になったばかり)。えっ、お城があるの?と、この町に来た人は、その立派な出で立ちに見上げてびっくりする。町にシンボルをと建てられたもので、実在していたものではないらしい。そして、一級河川・千代川。ここのアユは絶品!さらにユニークなことに、町の人みんな皿回しが出来ると言われるほど皿回しが盛んな町。(とは言え、当然坂本さんの器を皿回しに使ったりはしない)。さて、河原町の中井地区にある因州中井窯。山に囲まれ、耳を澄ませば川のせせらぎ。目を閉じれば草木の匂いが飛び込んでくる。それはそれは、心落ち着く空間。坂本さんは、ここを集中できる場所として愛している。

 

その二「家族は宝物」

 

とは言え「ずっと生まれ育った河原町中井を出ずに、もの作りを続けていいのだろうか?」もの作りをはじめた頃は自問自答を繰り返す日々だった。そんな坂本さんを支えたのは、一緒に暮らす家族。ご両親(お父さまは師匠でもある實男さん)、奥さま、かわいい3人の子どもたち。家族と過ごす時間は、土からほんの少し離れる時間。側にいて何気ない会話をすることで、また、もの作りへのパワーが沸いてくる。

 

 

 

その三「いつも心は凪(なぎ)」

 

人間だもの・・・。時にはストレスも溜まることもある、注文が一気に入って間に合わせなくてはと焦ることもある。でもそんな時も坂本さも平常心で窯に向かう。奇抜ではない、使い勝手のいい、同じものを作り続けること、これが何よりも難しい。

 

 

「その四「そして、これからも・・・」

 

モットーは、「継続は力なり」。もの作りの道に入って20年あまり。土を練り続けた日々、悩みながらも作り続けた日々、すべての通過点を経て今の自分があると坂本さんは断言する。そして最後に語ってくれた…「これからもおごることなく、暮らしに役立つ器を作り続けて行きたい」と

 

手仕事フォーラム 岡崎典子

 

 

因州中井窯 坂本章さんを迎えて

 

坂本さん!受賞おめでとう。
因州中井窯(鳥取県)の坂本章さんが、毎日新聞社主催・第18回日本陶芸展で毎日新聞社賞に選ばれました。日本陶芸展は第1部(伝統部門)、第2部(自由造形部門)、第3部(実用陶器部門)に分かれ、坂本さんが受賞した毎日新聞社賞は実用陶器部門での最優秀作品賞にあたります。
5月11日(水)の午後、鎌倉のもやい工芸に坂本章さんを迎え、坂本さんの受賞を祝う会が和やかな雰囲気の中で始まりました。もやい工芸の久野さんと、坂本章さんが出会ったのは、10年前。少し不安そうに製作をしている章さんを久野さんが見込んで、それまでに窯にあった既存のものを全て作り変えていくという大変な作業を叱咤激励しながら進めていったそうです。「ぼく自身は、それまで誰かの指導を受けた事はなく、おやじの仕事をただ引き継いでいくという状態に疑問をもっていた時期でした。おやじを目標としているとその人の事を越えられなくなるのです。だから、久野さんにくらいついていったのでしょう」。
こなした仕事量の多さ、誠実な物づくりの姿勢が、すぐに結果に結びついていきます。久野さんと出会って2年目に日本民藝館展の奨励賞を、6年目にはその最高賞、日本民藝館賞を受賞し、そして今年は日本陶芸展で毎日新聞社賞を受賞。それでも陶工としてはまだまだ若手の40歳です。
章さんは久野さんの指導のもと、黒・白・緑の釉薬を駆使した染分けなどさまざまな器を作り出しました。3色の染分けは、融点の違う3つの釉薬をそれぞれ2〜3年かけて作り、薪窯に入れる薪の大きさにもこだわって、3色はぴちっと発色した仕上がりにします。塵ひとつない掃除の行き届いた工房で、丁寧な仕事をする、そんな章さんだから、工業デザイナー柳宗理(日本民藝館長)がディレクトするのミリ単位のシリーズを手仕事で具現化することができるのでしょう。
「ぼくは新しいもん好きなんですよ。今までなかったものを作りたいという気持ちがあります」。現代の暮らしで使う器を作る陶工として、より積極的にユーザーと結びついて製作ができると、久野さんが章さんに期待するのも、そんな素地を持っているからでしょう。
お話しの間中、爽やかな笑顔で久野さんとのやり取りを楽しんでいる章さん。10年間一緒にがんばってきた信頼関係がにじみ出ています。
私は大振りの急須と湯のみを手に取ってみました。とても使いやすそうです。伝統的な染分けの器も、今の若い人達には斬新で新しいデザインに見えるでしょう。賞をとっても「自分自身がぶれないように仕事をしていきたい」と語る章さん。これからがますます楽しみです。

手仕事フォーラム 小林こりん

 

 

5月11日〜22日/鎌倉・もやい工藝

 

展示会初日の朝、天候はあまり優れず、どんよりとした雲が空を覆っていました。しかし会が始まる頃に近づくと、自然と雲がとれてゆき、昼前には晴れ間が空全体に拡がって最高の天気になりました。章さんの今回の受賞を天気も祝福してくれているかのようでした。鎌倉の海岸沿いのレストランで昼食をとりました。屋外の海がすぐそこに見える席で、心地よい潮風と日射しをいっぱい浴びて、乾杯です。これもまた最高でした。展示会は鎌倉のもやい工藝の奥の板の間で行なわれました。日頃、もやい工藝では個人の会はほとんど行なわないそうです。しかし今回は、もやい工藝の久野さんと章さんのこれまで10年間の二人の強い信頼関係のなかでの協同作業、地道な努力が実を結んだ受賞を祝う、特別な会なのです。
板の間の外は春の優しい日射しを浴びた緑がいっぱいで、その緑が展示された器の緑と重なっています。そこに黒と白が混じり、色のコントラストがとても美しく、見る人に鮮烈な印象を与えていました。中井窯特有の黒白緑の染分が強烈でモダンなインパクトを印象付けますが、個々の器をじっくりと眺めていくと、それよりも、作りの確かさ、作り手のものに対する誠実な気持ちがしかっりと伝わってきます。とても丁寧に作られています。章さんの人柄が、そのまま作るものに表れていました。
今回の展示会は急遽決まったそうです。なので、ものの量は少なかったのですが、それが逆に功を奏し、章さんの丁寧な仕事が凝縮されて、一つ一つをしかっりと見ることができました。せっかく当の本人が来ているのに、ついついものを見ることに集中してしまうほどでした。展示会を見て、直に作者の章さんとお話し出来たのは貴重な体験でした。これからも中井窯は、いままでと変わらず、作り確かな、使い手に誠実な器を作り続けてくれると確信することもできました。そして、これからがますます楽しみになりました。


手仕事フォーラム  鈴木修司