手仕事フォーラム〜手仕事の品をとり入れた生活の素晴らしさを

ホーム>手仕事調査>山陰・山陽・四国地方>安芸の宮島、手仕事調査

手仕事調査:山陰・山陽地方

安芸の宮島、手仕事調査

安芸の宮島、手仕事調査

2012年4月23日
訪問地:広島県廿日市市

4月23日、私達は宮島における杓子作りの現状を知るため、宮島内のとある木工の製作所を訪れました。
平清盛が現在の形を作ったことで知られる厳島神社。江戸時代には庶民も参拝のために宮島を訪れるようになり、その旅人のためのお土産である宮島名物がいくつか生まれました。その1つが杓子です。かつて厳島神社内にあった弁天様が持っていた琵琶に似た形の縁起物を、とのことで作られたと言われています。現在でも杓子と言えば、宮島のお土産、と思い浮かぶぐらい有名です。
まず、事務所にお邪魔し、自己紹介を兼ね、手仕事フォーラムの理念を久野さんが説明されます。「日常で当たり前に使うもので良品を見出し、末永く使いたい。」「使い込んでいくうちによくなるもの、そういうものの良さが認められる社会を作っていきたい。そのために全国を周り、手仕事を発掘したり、探し当てたり、支援したりしている。」始めは、訪問させて頂いた目的がよく伝わっていなかったために、なかなか本音を話してくださらなかった皆さんが徐々に心を開かれ、奥様が「高くて飾るものではなく実際に使いやすいものは美しい。そういうものをうちは作っている。時代とともに多少形は変わっていくが、原型は変わらない。でもうちで手で作るものは全く同じものは1つもない。」とおっしゃった言葉で、私達の目指すものを理解して頂き、またご一家が目指されるものとの一致が見事に感じられた瞬間は感動的で、また同じ思いを全員で共有しているということにさらに感動を覚えました。

 

そのご一家が杓子作りを始められたのは先々代の昭和の初めの頃からだそうです。宮島に沢山あった杓子の工房も、10数年前にプラスチックの【つぶつぶしゃもじ】が一気に出回ったために大打撃を受け、現在は数軒のみ。ご一家も仕入部門と製造部門を分けて経営しておられ、12〜13年前までは200種類以上のものを作っていた製品も、スプーンなどは採算が取れず、輸入のものを仕入部門で扱っておられるそうです。杓子の依頼は全国各地から寄せられ、神社奉納用のもの、温泉地のお土産になり、またこちらでは縁起物として名前や言葉を入れる杓子も作っているとのことです。それらの多くは形は中国で作ってきたものをこちらの工房でシルクスクリーンで文字を入れ、完成させます。全ての工程を工房で仕上げるのは、現在は調理べらと杓子のみで、家族を含めて10人、実際に制作に携わられているのは6〜7人だそうです。
プリント用のものではなく、こちらでのオリジナルを見せて頂きたいとお願いすると素晴らしい形のものが出てきました。

琵琶型が美しい桑の杓子。右は年月を経て色が変化したもの。

シンプルで機能的、手に取ってちょうど収まる形、握りやすさを兼ね備えながらの木目の美しさ。実物を見て、私達とご一家が目指す方向が同じであることをますます実感しました。
すっかりご一家とも打ち解け、2階の工房内を見せて頂くことになりました。

材料の木材。廿日市市から製材、乾燥させたものを運んでくるとのこと。
 
いまから形になっていくもの。
大まかな形になったものと道具達。
1つ1つ形を整えておられるところ。
手際よく形が整えらます。
さらに製品に近づいていきます。
手に滑らかになるようにやすりをかけておられます。
完成品の杓子と調理べらの数々。材料は桑や朴、桜など。

木目や元々木に入った傷などは完成品の形になってから現れることもあり、「ハネ」になってしまうものも残念ながら多いそうです。

シルクスクリーンの原版。
印刷されたもの。

いままで何度も手仕事フォーラムの旅に参加させて頂き、工房にもいくつか訪問させて頂きましたが、私がご一緒させて頂いたのは、これまでは久野さんの親しくされている作り手の方々ばかりでした。いつも楽しくお仕事を拝見し、久野さんとの長年の信頼関係を見せて頂いてきました。今回は久野さんも初めて訪問されるところであり、久野さんの活動をご存じない方のところだということで、(息子さんは手仕事フォーラムのHPはご覧頂いたことがあるとのことでした。)いつもとは勝手が違い、どのようにご一家と話を進めていくのか、どのように手仕事フォーラムの理念について理解して頂くのか、私も緊張しながら同席させて頂きました。始めは当たり障りのないことしか話して下さらなかったご一家が、久野さんの熱意や理念について理解され、お互いに「そう!そうなんですよ!」と声を揃えて会話が始まった時に、久野さんの目指す手仕事フォーラムの理念が作り手の方の心の扉を開く瞬間を見た思いであり、またその理念の素晴らしさを改めて知りました。今後も多くの本物の作り手の方たちと久野さん、手仕事フォーラムとの素晴らしい出会いが続くように願います。
琵琶型の美しい杓子は久野さんが早速仕入れてこられましたので、今後「もやい工藝」や「秋月」、ネットショップ「シルタ」でお目見えすることと思います。どうぞお楽しみに!

 

手仕事フォーラム 瀬部和美