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手仕事調査:東北地方

守山、鶴亀のしめ縄調査

守山、鶴亀のしめ縄調査

2010年6月27日
訪問地:福島県郡山市

郡山市田村町守山、郡山駅から車で30分程、風景は街から田畑に移っていく。
途中にあるJR水郡線の踏切は田に囲まれ、車窓からの風景ものどかなのが想像できる。
「鶴亀のしめ縄」の作り手、熊田三夫さん・マツさんご夫妻のお宅は、そんな田畑に囲まれた地域の中にありました。

 

村には阿武隈川が流れ、支流から田へ水が注がれる田圃風景が広がる地域。
「支流に流れていくうちに川の水が温まる。この温まった水が田圃に注がれるので米作りには適した良い土地です。」熊田さんは昔からこの地で米や野菜を作っている農家。農作業が一息つく11月から本格的にしめ縄作りを始めるそうです。
昔、この地域は守山藩と呼ばれた地域で、しめ縄も「守山じめ」と呼ばれ、かつてはどの家庭も親から子へ受け継がれ作られていたものでした。熊田さんは失われつつもある「守山じめ」を父親から教わって幼少から作っていました。

熊田家の神棚のしめ縄、黒米など何種類かの飾りが付してある

一般的に制作されたしめ縄は、神棚に供える「ごぼうじめ」「だいこんじめ」、「七五三(しちごさん)」と呼ばれる地域独特のしめ縄も作られています。
この七五三は藁の垂れがそれぞれ7本、5本、3本あるもので、ごぼうじめの下に飾るものだと教えてくださいました。
今でも守山では年始、厄払い、お祝いにと、しめ縄は暮らしに密着しています。
40年程前、熊田さんは「昔からのしめ縄飾りだけではなく、皆がもっと喜ぶ現代のしめ縄飾りを作りたい。」と考えていたそうです。
丁度その頃、政府の「減反政策」が行われ、熊田さんの田も減反せざる得なくなりました。
せっかくの田圃で米を作れない無念さが、しめ縄飾り用の稲を作るきっかけとなりました。地域の人からは「しめ縄用の食べない稲だからと言っても、減反部分に稲(米)を作るのはどうか?」という意見もあったようですが、熊田さんにとっては苦肉の策で飾り用の稲を育て始めたそうです。

熊田さん製作の鶴亀のしめ縄(右:鶴、左:亀)

熊田さんのしめ縄を残したい気持ちと減反政策とが重なった事から試行錯誤を重ね、熊田さんご自身の考えから鶴亀のしめ縄生み出されました。
形は現代の形でありますが、立派な大きさの仕立て、細かい技術、造形は、熊田さんの高い技術と工夫が見て伺えます。

 

鶴亀のしめ縄作りは、奥様のマツさんが稲穂を整え、ご主人の三夫さんが稲穂を編んでいく夫婦での共同作業です。
鶴亀を作り始めた頃は思うように形にならないと三夫さんが稲穂に鋏を入れて壊してしまう。
「私がせっかく揃えた稲穂をバサッと切ってしまうんですよ。」とマツさん。
「試行錯誤していた5年間位は、度々夫婦喧嘩もありました。」と三夫さん。
今では、昔の事を笑って話す仲睦まじいご夫婦です。

鶴亀のしめ縄をバックに 熊田さんご夫婦
(マツさんと三夫さん)

夫婦での共同作業で生まれたしめ縄らしく、鶴亀にも仲睦まじい意味、家族の幸せが込められています。

 

■鶴
上方右には、365日家庭を明るく照らしてくれるようにと365本の稲の茎部分で作られた「日の出」
中央に下がっているのが夫婦仲良く「夫婦ひょうたん」
その下には、幸せの「四葉のクローバー」
クローバーが入っていることろが現代に作られた飾りと言えますが、クローバーが全体を引き締めてくれています。

■亀

亀の甲羅には「寿」の文字

「守山じめ」の美しさは形の美しさ、稲の美しさだと熊田さんは言います。

綺麗な放物線を描いている「だいこんじめ」

穂先が綺麗だから端の部分が綺麗な始末になっています。この穂先の美しさ、形の美しさを充分に表現しているのがこの「鶴亀」ではないかと思いました。鶴は楕円、亀は菱形の穂先、この形は熊田さんから生まれた造形ですが、「守山じめ」を作っていたからこそ生まれた、熊田さんの目・手から自然に出てきた曲線だと感じました。

 

鶴亀のしめ縄に使われている稲は「亀の尾」という品種。

亀の尾の稲穂

この亀の尾は、茎が長く、穂の先端部分の付く細かい毛のような「芒(のぎ)」が長いのが特徴です。茎は1m以上もあり、稲穂を綺麗に揃え編んでいくのは至難の技です。

亀の尾の「芒(のぎ)」部分

今、私たちが食べているコシヒカリやササニシキの4代前の品種で明治時代に偶然見つけられ、明治・大正時代には大量に食用、酒用に各地で作られました。
茎が長いので稲穂が付くと稲の根元から倒れてしまい、刈り込むのが大変だったようです。後に農業も機械が入ってきて、米の品種改良も進み、現在のコシヒカリなどが生まれます。いわば、この「亀の尾」の発見があったからこそ現在の美味しいご飯が食べられています。
熊田さんは、この「亀の尾」だけではなく毎年他に5,6種類も育て、飾りに応じて稲を使い分けするそうです。そして、綺麗なしめ縄の青色が出るように肥料の調節も欠かさないそうです。
材料においても、随所にしめ縄に込められた願いが伺えてきます。

 

春から稲作りが始まり、9月頃から順に青刈り、10月末には稲穂の刈入れ、11月頃からしめ縄と鶴亀の製作に入ります。

この鶴亀は各地から依頼がきているといいますが、どんなに頑張っても年に20組位しか鶴亀は製作できないとの事。

「守山じめを残していくには、技術を伝える事は大事。」と熊田さんは言います。
熊田さんは、毎年暮に地域の公民館などでしめ縄教室も開催しています。
「鶴亀は教えるのは無理ですが、簡単な正月用の飾りならお子さんでも楽しんで作れます。
しめ縄作りに興味を持ってくれるなら、惜しみなく技術を伝えます。」
子供から大人まで集まり、12月は方々にしめ縄教室に忙しい熊田さんです。

日本暮らしと米の関係は切っても切れないものです。大地からの恵みをもって幸せを願うしめ縄の文化も日本ならではです。
時期柄材料が無く実際に製作している場には立ち会えませんでしたが、次世代に受け継いでほしい技術と願いに出会えた調査となりました。

 

手仕事フォーラム 川崎正子