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手仕事調査:東北地方

三春人形の工房を訪ねて

三春人形の工房を訪ねて

2010年6月27日
訪問地:福島県郡山市

郡山市西田町高柴。三春人形の故郷は「デコ屋敷」と呼ばれ、数件の家が軒を連ねて三春人形を作り続けてる山間の集落です。今回お伺いした恵比須屋17代目の村上廣司さんのお宅は、その集落からほんの少し離れたところにありました。しとしと降る雨の中、深い軒のどっしりとした構えの民家の玄関を入ると、今はもう使われていませんが、かまどのある土間につながっています。その奥の広間で3人の方が作業をされており、その一番奥で絵付けをされていたのが廣司さんでした。

■三春人形とは

三春人形

三春人形の始まりは、同じく福島の郷土玩具として有名な三春駒の技術です。この木を加工する技術が、張子の木型を作る技術を生み、三春人形が生まれました。

 

三春人形は、4つの工程を経て作られます。
(1)薄い和紙を5枚張り合わせる「紙合せ」、
(2)その材料を熱湯に浸してやわらかくし、木型に貼り付けて人形の形にする。
(3)乾燥させたら刃を入れて木型から取り外し、膠で張りあわせる。
(4)胡粉、火鉢で温めた顔料で絵付けをする。
この工程を4人で行い、絵付けの作業では一日に15〜20体が製作されます。絵付けに使う色は青、うす青、墨、赤、黄蘗色の五色。これでざっくりとした絵を付けます。

橋本廣司さん(撮影:平林みか)

使われる木型は約80種。中には江戸時代から使われ続けているものもあり、よく使われてきた木型ほど、刃を当てる回数が多いため、傷が深くなるのです。型の材料には、みずみずしくて細工のしやすい山ヤナギを使います。かつては、人形の作り手が型も作っていましたが、今、廣司さんは昔あった人形の型の復元を、近所の大工さんにお願いして作ってもらっているそうです。

干支の兎の木型 

昔からの作り方を守ってきた三春人形ですが、失われたものもあります。
かつて、絵付けは草木染でされていましたが、明治以降、科学染料が使われるようになりました。廣司さんが三春人形作りを始めた頃には、すでに科学染料を使うことが当たり前の時代で、今ではもう、草木染での作り方はわからないとのことでした。

 

■自然とともに

 

橋本廣司さんは昭和20年生まれ、昭和35年頃から三春人形を作り始めました。最初の頃は膠がベタベタしていやだったそうですが、だんだんと材料に自分を合わせていくことを覚えたそうです。

 

その後、夏季民藝学校に参加した際に、外村吉之助氏に自分の作品を20点見せたところ、その中で2点が選ばれ、それ以外は返された。この経験で、自分の仕事に自信を持つようになります。

 

ちなみに、浜田庄司とバーナード・リーチが橋本さんの仕事場を訪ねたのは廣司さんが12歳のとき。学校から帰ると、家で祖母が外国人としゃべってるのを見てとても驚いたと、笑顔で話してくださいました。

浜田庄司とバーナード・リーチの来訪

ゆっくりお話を伺ううちに、廣司さんが繰り返しおっしゃっていたのは「自然を自分に取り込んで、自然が人形を作る」という言葉でした。

 

30歳くらいの頃、技術はやれば筆が軽くなり、上手になってゆくけれど、「人に訴えるものは何なのだろう?人形をただ作るだけではだめだ」と気付き、廣司さんは禅宗のお坊さんのところへ行って座禅を組むようになります。
座禅を通して学んだのは「自分を殺して、自然が作る。自然を自分に取り込んで
「一生懸命勤めさせてもらいます」という気持ちで一生やる」ということでした。

 

昔の三春人形の作品集を見せていただきながら、話は続きます。

「昔の人はうまくやろうと考えていなかったのかもしれません。師匠である父は、手取り足取り教えてはくれず、直すところだけ言ってくれます。自分で体得することが大事だと昔の人は考えたんですね。頭だけ使ってもだめ。体全体でやれという。手だけではなく体全体がつながっている。下手も良しで、上手になると下手になれない。昔の人は下手だけど、心が表れる稚拙さ。こういう「どぼっ」とした線はやろうとしても描けないんですよ。収めようとしていないし、100点とろうとしていない。自分の作るものは、どうも小さくまとまっていて、昔のものは「ぱーっ」と大きく見える。技術を8割にすると2割、人をひきつけるものが出てくるんですね。」

三春駒
三春羽子板

その後、仕事場の隣にある資料館を廣司さんに案内していただきました。古いものから最近のものまで、たくさんの三春人形、その木型が並び中には三春人形のルーツでもある三春駒や三春羽子板も収蔵されています。のびやかな人形の表情をみて、「自然がつくる」という言葉が、すとん、と心の中に落ちたような気がしました。情報の海の中で、つい知識にばかりに目が行ってしまいがちな現代、使い手も「自然を取り込む」素直さを持って、物と向き合いたいと思いました。

資料館に保管されている三春人形
廣司さんの作る現代の三春人形

手仕事フォーラム 平林みか (写真:川崎正子)