手仕事フォーラム〜手仕事の品をとり入れた生活の素晴らしさを

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手仕事調査:東北地方

東北の麻

東北の麻

2010年10月5日
訪問地:岩手県盛岡市

東北の旅の最終日はホームスパンの蟻川工房を訪ねました。

 蟻川工房の壁にはおもしろい形をした「杼」がいくつか掛けられています。これらは、「自家用の麻」を織る地機の杼で、織り手の身体のサイズに合わせてその家の主人が手づくりしたものだそうです。
 蟻川さんからお聞きした東北の「麻」のお話をご紹介します。

東北の麻の物語

 

 東北地方の寒冷な気候では木綿は栽培できないということもありますが、麻の着衣は田圃に入って裾が濡れても上まで水があがってこないし、汗も発散させてくれるので、「田の仕事」にはなくてはならない必需品でした。

 麻の中でも繊維が長く強い大麻を刈って、蒸して、剥いで、オガラをとって、「根元から先+根元から先+根元から先」と方向をそろえて績んでいきます。績んで糸になったものは、「麻績桶(おみおけ)」と呼ばれる容器に入れ、経糸には撚りをかけます。

 そして杼から出てくる緯糸がささくれないよう根元からでてくるように、独特の巻き方で糸出しをして織っていきます。

 

 麻の布を織りあげるまで、たいへん手間のかかる仕事ですが、女性たちは農閑期にせっせと夜なべをして、春の田植えのお祭りには家族に新しいものをつくって着せました。これは女性たちの誇りでもあったのです。


 女性が農作業をするときは、日に焼けたくないために手甲などをして肌を守りますが、そういう手甲などにも家ごとあるいは部落ごとにそれがわかる文様の刺繍を入れました。また着物の下にはくパッチのふくらはぎの部分には▽の布を接ぎ合わせてありますが、そういう刺繍や接ぎ合わせをいかにきりっとかっこよく仕上げるかは、地域の人々の注目を集めるところでもあり、女性の腕の見せ所でもありました。手先の器用さは、「あの家の娘は“てんど”がいいので嫁にしよう」というふうに、嫁選びの基準にもなったそうです。


 手間ひまかけて新調した野良着は、もったいなくて、そう簡単に農作業におろしてしまうことはできません。しばらくは、家から自分の田畑に到着するまでの間の通勤着のようにして、付近で農作業をする近所の人に見せ、自分の田畑に着いたらさっさと古い野良着に着替えて農作業をしたといいます。

 

 蟻川さんは、このお話を雫石に住む、あるおばあさんから聞いたそうです。その女性は学

校へは行かなかったが、畳の長辺と短辺を物差しがわりにするような工夫心のあふれた人で、伊達ゲラづくりの名手でもあったそうです。

 戦後、安い木綿が入ってくると、麻はあまり使われなくなり、蟻川さんはそうした麻糸を買い取ってしまっておきました。そして今、座布団の緯糸として使っておられます。糸がつくられた過程を思うととてもぜいたくですが、麻糸を使った座布団は、汗ばむ夏でも肌にくっつかず、サラッと快適です。

 

手仕事フォーラム 後藤薫