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手仕事調査:東海・近畿地方

小春花製陶/赤楽麦藁手の技

小春花製陶/赤楽麦藁手の技

2014年12月17日
調査:2011年8月6日
訪問地:愛知県瀬戸市

 一人の優れたつくり手の技を報告します。
つくり手は、赤楽麦藁手(あからくむぎわらで)と呼ばれる絵付けの名工、加藤万佐代(かとう まさよ)さんです。

赤楽の魅力

赤楽麦藁手は、赤楽と呼ばれる土で描かれた朱を帯びた色の線が魅力です。
赤楽は黒く細い線の間に描かれていて、いずれの線も乱れることなく等間隔に引かれ、器の縁から底の中心へ吸い寄せられるように、ただ一つの点となって静かに収まって見事です。
加藤さんは嫁いでほぼ40年間、この絵付けを続けてきた熟練のつくり手です。1本1本の線を慎重にゆっくりと引くのではなく、一定のリズムで繰り返し繰り返し引き続ける。例えば黒い線は、内側と外側を合わせ1つの器を2分ほどで引き終えます。そしておそらく、1日で5、60個以上は引いていたのではないでしょうか。その慣れきった手が生み出した線のリズムと勢いが、赤楽麦藁手のもう1つの魅力です。

赤楽麦藁手五寸皿。2004年頃につくられたものです。

調査と報告
2011年8月6日に、手仕事フォーラムの調査として加藤さんの仕事場である小春花(こしゅんか)製陶を訪ねました。この調査で、普段は仕事を見せることがなかった加藤さんが、私たちの前で絵付けをしてくれることになっていて、その技をカメラに収めることができたのです。

加藤万佐代さんは昭和16年生まれ。当時70歳で、普段より少しおめかしして出迎えてくださった姿は若々しくて、とても70には見えませんでした。

さっそく仕事を見せていただきました。

このときの調査について、後藤薫さんがブログに報告しています。仕事の内容やその場の雰囲気がていねいに書き留められていますので、お読みください。ここでは、赤楽麦藁手の主に絵付けの工程を画像によって報告することとします。

 ・手仕事フォーラムブログ:「赤楽の麦藁手」2011.08.25(後藤薫)
  http://blog.teshigoto.jp/?search=%C0%D6%B3%DA%A4%CE%C7%FE%CF%CE%BC%EA

また、2004年の調査報告として、上砂雅彦さんが赤楽の特徴や歴史的な背景などについて記録しています。あわせてお読みください。
 ・ホームページ/手仕事調査:「赤楽」 2004年5月13日 訪問地:愛知県瀬戸市(上砂雅彦)
  http://teshigoto.jp/handwork_research/toukai/20040513.html

絵付けの工程

飯椀の絵付けです。

絵付けは黒の細い線から引きはじめます。
まず内側に1本線を引き、碗を180度返してさらに1本引き、つぎに直行する2本の線を引いて全体を4分割します。

4分割の中を2分割してさらに3分割します。これを順に繰り返して24本の線を引きます。

24本の線がみごとに1点に集まっています。

続いて外側です。
はじめに線を1本引き、それから隣へ順に引いてゆきます。全体を割り付けてゆく内側とは手順が違いますが、最後の1本を引くと見事に全ての線が等間隔に並んでいます。

次に赤楽の絵付けです。
普段の仕事では、黒い線をまとめて引き、それから赤楽を引くという工程だと思いますが、この日は黒線に続いて赤楽を引いていただきました。

布海苔を混ぜた赤楽の土は、描く直前に十分に混ぜておきます。

赤楽をたっぷりつけた筆を器の縁に置き、そのまま筆を引いて底の近くで消えるように終わります。

黒から赤楽まで、絵付けにかかる時間は1つの器に5分くらいでしょうか。その早業の中にも、一筆一筆微妙に異なった表情が現れるところが手仕事のおもしろさです。

写真の中央奥が素焼きの碗で、手前左が絵付けを終えたもの。右が焼き上がった赤楽麦藁手の飯碗です。赤楽の土の採取場が変わったため、今はオレンジ色の赤楽になっています。

名工加藤万佐代さん

長年にわたり同じ仕事を繰り返し続けてきた名工の手は、私たちの質問に答えながらも休むことがあません。そして乱れることもありません。ときに線が途切れてもすぐに修正して、何事もなかったように仕事を続ける余裕はまさにプロフェッショナル。赤楽麦藁手の絵付けができるのは、一大窯業地のこの辺りでも加藤さん一人ということですので、この技の一通りを見て、記録することができたこの調査は、とても貴重な機会でした。

仕事場で絵付けをする加藤さんは、見ているものの感動をよそに淡々と筆を動かし続けます。

しかし、加藤万佐代さんは、2013年秋に突然他界されました。優れたその技を二度と見ることができなくなったのです。
後藤薫さんはブログの最後に、「食卓に楽しさと、そこはかとない華やぎのようなものをもたらしてくれる『赤楽の麦藁手』。いつまでも続いてほしい手仕事です」と書いています。そのときは、加藤さんの急逝でこの技が途絶えてしまうとは全く考えられないことだったのです。

技の継承

『暮らしの手帖』の連載「ものことノート」第42回に小春花窯が取り上げられました。
執筆者の久野恵一さんは、「瀬戸のもう一つの伝統」赤楽麦藁手の魅力を語り、そして、加藤万佐代さんの急逝による「赤楽麦藁手の危機」を前に母の仕事の重み」を理解したご子息の宏幸さんが、その技の継承を果たしたことを伝えています。
「麦藁手の伝統はつながった」のです。

『暮らしの手帖』73号(2014年11月25日発行)

日本有数の窯業地、瀬戸・品野地区の窯元の一つ、小春花製陶のたたずまい。
この屋根の下で、今も赤楽麦藁手の技が伝えられ続けています。

(大橋正芳)