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手仕事調査:東海・近畿地方

熊野本宮ガラス「ガラス屋 靖」

熊野本宮ガラス「ガラス屋 靖」

2015年5月20日
調査:2012年8月5日
訪問地:和歌山県田辺市

熊野本宮大社の入口から歩いて数分、国道に面して茶房「靖」の看板を掲げたお店があり、正面の窓越しにガラスの器が見えます。

お店に入ると落ち着いた雰囲気のティールームがあり、左手がショップで、ガラスのコップや花瓶などが外光を受けて優しく輝いています。

 

久野恵一さんとの二人旅で、ここを訪れるのは久野さんもはじめてです。しかし久野さんは、一見して「気取ってないし、いいんじゃないかな」と気に入った様子で、お店の人に声をかけます。お店の女性が奥に声をかけるとご主人が出てきました。ガラスのつくり手、木下穰二さん、若いつくり手です。奥さんとお二人でお店をやりながらガラスを吹いているそうです。

木下さんは1974年生まれの38才(2012年の調査当時)。大学を出て、1998年に沖縄の奥原硝子製作所に入社、桃原正男さんに師事をします。そして8年間の修行を終えて2006年に退社し、郷里に帰り、お母さんがやっていた茶房の裏にガラス工房をつくり、2009年、ガラス屋「靖」がはじまりました。 展示されていたガラスは多くはありませんが、シンプルで飾り気のないコップや小鉢などが並んでいます。色も薄く緑がかったクリアーに青と紫、それに緑が少しと全体にシンプルで、透明感があってすっきりとしています。

工房は茶房の裏にあります。瓦屋根が印象的なおしゃれな工房です。
その向こうに青々とした稲田が広がっていて、稲田の中に大斎原(おおゆのはら)の鳥居がドンと立っています。日本一大きな鳥居だそうですが、かつてはここに熊野本宮大社がありました。「熊野本宮ガラス」は、その名にふさわしい立地にあるのです。

 

工房の右手の部屋にコップが並んでいます。日常に使いやすそうなコップで、奥原硝子の4半コップに近い感じです。久野さんはさっそく仕入れを考えはじめたのでしょう、木下さんにあれこれと注文を付けていましたが、木下さんの仕事には、琉球ガラスの本道を歩んできた奥原硝子で学んだことが製品の根幹を形成しているようです。そして、奥原硝子の伝統を支えてきた桃原さんの姿勢が、木下さんの精神にも一本の筋金として貫かれているように感じました。

ガラス工房に入ると、ゆったりとした広さがあり、器具が整然と並び、そして見事に掃除が行き届いていて感心します。きれいなのは窯が電気窯だからかもしれませんが、木下さんの几帳面な気質が表れているような気がします。
奥原硝子同様再生ガラスに徹していて、窓用の板ガラスの廃材を紀南地域のサッシ屋さんから仕入れているそうですが、琉球ガラスよりもクリアな質感と端正な形にも、木下さんの気質が反映しているようです。

使いやすいものをつくることを目指しているという木下さんは、沖縄での分業から一人でガラスを吹くことになって、時間はかかるけれど、全行程に関わることができること、そしてきっちりつくれることが嬉しいと話していました。
新たなつくり手の発見です。これからが楽しみな若いつくり手です。

 

(大橋正芳)

 

久野恵一さんのこと

熊野本宮の調査は、2012年8月4日の久野恵一さんと大部優美さんの3人による近江手仕事調査の“おまけ”でした。
4日は近江木綿と下田焼を調査し、その夜は久野さんと2人で京都に投宿。翌5日、久野さんは夕方までに神戸ビームスへ行くことになっていて、時間があるので熊野へ行こう、ということになりました。本宮を詣でて新宮で寿司を食べようというのです。私が熊野へ行ったことがないことを覚えていてくれたのですが、それにしても唐突でした。
久野さんの車で朝7:34に京都を発ち、田辺から中辺路(国道311号)を走り、途中いくつかのつくり手を訪ねながら12:50に熊野本宮に着きました。さっそく大社を詣で、古道の石段を下りて昼食です(さすがに新宮まではたどり着けませんでした)。

途中もやい工藝の堀澤さんから仕事の電話があり、久野さんが熊野にいることを告げると、堀澤さんから熊野本宮ガラスというのがあるらしいので行ってみるようにという“指示”がありました。久野さんは意に介していませんでしたが、お昼をどこにするか、「そうだ、地元の人に聞こう」ということで、聞いたばかりの番号に電話をしたのです。本宮入口にある店を紹介され、うどんを食べ出ると、すぐ目の前が電話をした熊野本宮ガラスです。通り過ぎるわけにも行かず訪ねると・・・あとは報告の通りです。
帰路はフルスピードで神戸に向い、18:30に無事到着。久野さんはビームスへ。私は新幹線で帰京したのでした。
結果は行動から生み出される・・・久野さん、ありがとうございます。