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住まいと暮らし

倉敷の路地

倉敷の路地

2013年7月10日
語り手:吉田芳人(手仕事フォーラム会員)

 訪ねた町を知るには、まず街中を歩いて廻ることが重要です。特に伝統的な町並みには、昔の面影がいたるところに残っています。倉敷の場合は、早い時期から町並み保存運動が盛んで、大原家2代の功績により昭和44年(1969)に倉敷美観地区を制定し、昭和53年(1974)に国の伝統的建造物群保存地区に選定され、景観の保全と観光に力を入れています。

倉敷町家

本瓦葺き、倉敷窓、倉敷格子を備えた伝統的民家

 倉敷は寛永19年(1642)に幕府の直轄地である天領と定められ、代官所が設けられてから海側の干拓が進められ、倉敷川が海に通ずる中国地方南部の物資の集散地として栄え、米・綿・油等が輸送の中心となる舟水路を通じて集荷・搬出されるようになり商業地として発展し、川沿いに各問屋の倉庫が次々と建てられました。伝統的な町並みは、倉敷川河畔に沿った地域と鶴形山の南側本町通りを軸に形成されています。町中に点在する、伝統的な商家、美術館、お洒落なショップ・レストラン等魅了的なポイントは多くありますが、町の歴史を体感するには倉敷の町屋の特徴を知り、町中の路地に着目すると見えなかった魅力が見えてきます。

倉敷窓

防火用の土塗り扉が付く倉敷窓は重要文化財井上家の窓

 

倉敷格子

主屋1階正面にはめ込む格子、上下に通る親格子の間に細い3本の格子が入ります

 町屋の一般的形式は、本瓦葺き、平入・切妻で壁は白漆喰塗りの大壁で、2階に格子が入った小窓(倉敷窓)が付きます。1階は通り側に親1本通し3本切子の格子(倉敷格子)を設け、切った格子の上部から内部への採光を図っています。妻側外壁に焼杉板を張る家が多いのは中国地方の町屋で見られる特徴です。土蔵は、通り側に妻壁を見せ、白漆喰、馬乗り目地のナマコ壁が特徴です。倉敷川と本町通りの間には背割り通路がありこの道に分け入るように表通りからの路地が繋がっています。この路地は家々の隙間に出来た空間で車中心として整備された道路と違い、近代以降の整備から取り残された空間と言えますし、主に住民の生活道路としての役割が多く、ここ倉敷では鶴形山の地勢に沿い曲がった本町通りと倉敷川に沿ったくの字型の道を繋ぐ路地は場所ごとに違った表情を見せてくれます。特徴的な路地を見ていきましょう。

焼杉板張の外壁

腰の焼杉板となまこ壁のバランスが絶妙です

 本町通りに向かう路は店舗が連なり、左側にアイビースクエアがあり観光客で賑わう通りです。この通りは北側に鶴形山を望み緩やかに曲がっているため、見通しが効きません。反面商家の屋並が連なって見え、先に何があるか期待感をもたせる空間といえます。

緩やかに曲がった路

視線を先に誘導する、軒先の繋がり

 通りに面した裏の道は通称背割り通路と呼び、商家の裏口がある通路で生活道路としての役割が高い道です。両側の土蔵のなまこ壁と漆喰壁・板壁に挟まれた通路は昔の面影が感じられる魅力的な空間です。背割り通路の西側大原家住宅の裏にある竹垣は、倉敷格子のように縦に通した親竹の間の2本の竹の上部を切り交互に並べて垣根を作っています。
垣根まで景観に配慮した意識の高さが感じられます。

竹垣

倉敷格子を彷彿とする、竹の組み方が美しい

 表通りから背割り通路に繋がる道の床に二列に石が敷込まれた路地があります。この石敷き部分は、かつて土蔵へ大八車等の荷車を引いた痕跡で敷石を見るだけでも当時の賑わいを彷彿とさせます。
同じく背割り通路に繋がる路地ですが、人が歩くだけの道幅しかありません。この通路は商家の隙間に自然にできた道で、路地同士が表通りに対し雁行して通っています。なまこ壁と焼杉板張りの外壁が連なる路地から倉敷川の木々が垣間見る事が出来、歩く人にとって変化を楽しめる路です。

石張の路地

敷き並べられた石の間隔は荷車のわだち幅

 

雁行した路地

僅かにずれた路地は視線の変化が楽しめます

 路地に面し改修を行った建物がありました。保存地区内のため、倉敷格子やなまこ壁はしっかり再現されています。下屋の瓦屋根の高さ、なまこ壁の張り位置に関して、対面する土蔵の水切り高さに合わせて造られ、家々の外観が土地々の環境ルールに沿って計画されていることがわかります。

改修された民家

本来の伝統的造りと違いますが、全体として街並みと調和が保たれています

 伝統的建築群とは、広い意味で建造物はもとより水路・石垣・塀・樹木等環境を構成する要素全てを示します。そのため、空地となった敷地の目隠しとして設けた板塀にも焼杉板を使い、向い合う板塀との調和を図る行為がさりげなく、自然に感じさせます。これら、いくつかの路地を見ていくと、倉敷は鶴形山の自然の微地形と水運で栄えた町が有機的に結びついた特徴的な町並景観を形成しており、観光地としての見所もコンパクトにまとまっており、何よりもきれいな町が維持されている住民の誇りを感じることが出来ました。

焼杉板張りの塀

焼杉板の黒と白壁、奥に見えるレンガ積みの土蔵の赤が印象的

 私たちの生活環境に置き換えてみると、身の回りの品々が背伸びをせずに自然に生活に寄り添うように使っていくことが出来るように、心がけないと本当の美しい生活を重ねることが出来ないのではないでしょうか。生涯終わることのない問いかけのようでもあります。