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住まいと暮らし

諏訪糸萱地区の土蔵

諏訪糸萱地区の土蔵

2014年9月24日
語り手:吉田芳人(手仕事フォーラム会員)

 住まいと暮らしの取材の中で岐阜県旧宮川村種蔵集落にある板倉を取り上げたことがあります。板倉は収穫物と種・農具を保管する用途のため、主屋から離れた生産耕地に近い場所に建てられています。火事等の災害から逃れることが目的で、災害に遭遇したとしても、板倉が残っていれば生活を立て直す起点として機能するからです。山間地の限られた耕作地の中の板倉は自ずと群を成して建てられるようになりました。

 今回訪ねた、茅野市北山の糸萱(イトカヤ)集落は、道路に沿って板倉と土蔵が混在して建ち並んでいます。主屋は倉の奥に建っています。町屋での土蔵は主屋の奥に目立たないように立っていることが多いのですが、この集落では倉が道路に面し建てられています。これは倉の利用目的の変化が表れています。稲作は米を収穫する外、稲わらを縄やゴザ、わらじなどを農閑期に作り、残った稲わらは細断し田に戻し肥料とするように、収穫物を無駄なく使うことが基本にありました。そのため耕作に使用する道具類は、耕作地の近くにあることが自然でしたが、後年倉は家財を収納する割合が増すと共に主屋の近くに配置され、構造は板倉から火災から家財を守るため土蔵として活用できる仕掛けを備えて建てられていきます。土蔵化した目的として、防火に加え土蔵の気密性により外気温の影響を受けにくいことより、冬期氷点下以下になるこの地区の厳しい環境の中で収納されるものを安全に収納できる土蔵への要求があったと考えられます。

道路沿いに建つ板倉と土蔵

 板倉は、元々丸太や角材を井桁に組んだものを積み重ね、柱を用いないで壁を造る方法を校倉造りと呼び、正倉院宝物庫が知られています。民家でもこの形式の物が倉として活用されています。厚板を水平に組み合わせたもので、米を蒸すせいろうに似ていることからせいろう倉と言われます。木の組み方は建物の平側と妻側の部材を交互に噛み合わせて固定する方法が古く、大量の木材が必要とするため、後代になると、厚板が薄くなり、板幅が5寸から7寸程度の同一部材の板材となり、中間に柱を建て中継ぎとして、柱に彫った溝に板を落し込み、隅部をせいろう組みとする工法に変化し、最終的には四隅に柱を建てて倉を造るようになりました。構造的には壁構造から柱梁構造に変わったと言えます。この倉の造りを落し板倉と呼びます。板倉造りの特徴は木組み以外に2階に開けられた通風窓が板を積み上げた部分に窓を穿つため大きな開口を設けることが出来ないため、土蔵に見られる土蔵扉も設けることもありません。
 糸萱集落では落し板倉が多く、屋根にはすでに土を厚く塗り付け、下げ縄を垂らしてあります。この縄は土塗りとの付きを良くするため施されています。板壁に土を塗り付けるには、シャチと呼ばれる木の釘を下地として用い、縄を垂らして土団子を投げつけ土の付きを良くする荒打ちから始まり、大直し、ムラ直し、中塗り、上塗りと多くの工程を手間と時間を掛けて、土蔵に仕上げていきます。地区内には荒壁の状態の土蔵もあり変化の過程を見ることが出来ます。

棟飾りに雀おどりを持つ落し板倉

 

軒部に土を乗せた屋根と壁の土塗りのため下げ縄が垂らしてあります

 

壁隅にせいろう組みの木組みが見えます、足元に穴が開いている部分に木製のシャチが打ち込んであります

 

鉢巻、妻飾りの下地が整った荒壁

 

土の付きを良くするわら縄がみえます、土には藁を細断したつなぎがはいっています

 腰部分に下見板張やナマコ壁、切石張りや擬石仕上げ等、軒廻りの斜めに張り出した部分(鉢巻と呼びます)に唐草のくり形を付けたり、窓廻りの化粧枠の細工など家ごとに工夫がこらされています。妻の鏝絵に至っては恵比寿様、大黒様、鶴、亀、鷹、家紋、屋号など種類の多さに圧倒されます。

腰部が下見板張の土蔵

 

腰部に七宝型ナマコ壁を持つ土蔵

 

窓廻りの飾り左官、小さい窓が大きく見えるように細工がしてあります

 

妻飾りの大黒様の彩色鏝絵

 

鉢巻部分の家紋と妻飾りの鷹の鏝絵

 これだけ多くの蔵が土蔵化されたのは、明治のはじめに村で大火がありほとんどの家が焼けてしまい、焼け残った土蔵の中で辛うじて生活が出来たことにより土蔵の重要性がいっそう高まり、競うようにして土蔵が建てられたからです。とはいっても、土蔵にするには莫大な費用と時間が必要となるため、何世代に亘って家の象徴として作り上げた土蔵が並ぶ糸萱地区土蔵群の景観は我々に建築のあり方を示しています。
 近年の住宅は、核家族社会を背景として完成した時が最高で、後は消耗されて消え去ってしまうことが多く、生活者の家族構成・生活スタイルに応じ手を加えながら住み続けることがまだまだ十分ではありません。資源を有効に活用して、持続性のある生活にシフトするには生活の周りで使うものに愛着を持ち、将来を見据え何が今必要なのか、今使っているものをどの様な生活シーンの中で活用するかの展望を持ち生活環境を整えることが必要です。生活の器でもある住宅も同様に、次の世代に受け継ぐことのできるようにリファイニング(再生)して作り上げる既存資源活用型の住宅が今後主流となると言えます。
 参考文献 :「滅びゆく民家」川島宙次