手仕事フォーラム〜手仕事の品をとり入れた生活の素晴らしさを

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染屋の大甕

染屋の大甕

2015年5月27日
語り手:横山正夫

 信州上田郊外の染屋で作られていた水甕です。
 染屋焼は江戸中期に愛知県の常滑の職人の指導で始められたと言われています。そして、昭和の初めに閉窯されました。無釉薬焼き締めの焼き物で、陶土に鉄分が多く、また耐火性が低く、薄くひいた機体では焼成中に潰れてしまうため、その製品はおのずから厚手で、大型の壺や鉢類となりました。
現代では流通網の発達で遠くの産地の品物を取り寄せることも容易ですが、江戸時代は各藩がそれぞれ独立国家のごとき体をなし、自藩内で自給自足するのが当然のことであり、このことがかえって各地に独特の手仕事を生み出しました。この染屋焼も江戸時代の制度がなければ生まれてこなかったとも思われます。
ご紹介する甕は、水甕です。上田地方は雨が少ない地域で、飲み水はこのような大甕に水をためて利用していました。そのため、生活の必需品として、大量に作られました。
繰り返し大量に作られる中で、染屋独特の鉄分の多い陶土による赤みのある肌、焼成時の松灰による自然釉薬、分厚く車輪のような縁取りが生まれました。まさに生活に根ざした手仕事の極地と言っても過言ではないでしょう。
このような大甕は残念ながら現代生活には不要の物であることは明らかです。しかし生活に根ざした実用陶器として、このような逞しく、美しく、堂々とした陶器が生み出されていたことを忘れてはなりません。
この大甕を見ていると、堂々たる体躯、揺るぎない信念、荒々しさの中にある優しさ、そしてユーモアに満ちた久野恵一氏の姿に重なります。