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隠岐國風土記

おひとりさまの離島

おひとりさまの離島

2010年3月2日
語り手:田中浩司

 島暮らし、いろいろなものがない。スーパーがない。コンビニがない。カフェがない。レストランがない。ケーキ屋がない。パルミジャーノ・レッジャーノがない。白胡椒がない。…食べ物ばかりか。そうだ、信号機もない(ひとつだけ教育用にあるけど)。そんな離島での一人暮らし。かなりサバイバルな感じがする。都会のように安い外食で日々の食事をカバーできない分、離島暮らしにはある程度家事力が必要だ。外食できるところは一応あるものの、毎日食べるのは無理。高くつきすぎるし、何よりも飽きる。

 洗濯機は回せても、食事が作れないという人(だいたいオトコだ)は少なくない。島暮らしを甘く見た人の中には、ご飯が作れず、レトルト漬けになった挙げ句、栄養不足で都会に帰っていった人もいる。島では総菜やお弁当など「できたもの」が少ない。魚は常に「丸」。丸ごとだ。「魚は切り身で泳いでいる」と思う人もいるのに、魚一匹丸ごと調理しろというのはちょっと酷かも知れない。

 もっとも、自分も魚をさばくようになったのは、島に来てからのこと。必要が能力を養うのだ。切り身が売ってない以上(泳いでいない以上?)、やるしかない。見よう見まねで三枚おろしから覚えた。今ではアジ、サバなどの青魚や、鯛や平目にカレイなどの白身魚、カサゴなどのデコボコ系、ヒラマサなどの重量級、イカに岩がき、アワビにサザエくらいは自分で調理できるになった。お〜こうして並べてみるとけっこう凄いじゃない。鯛のようにごっついウロコがついた魚はウロコが飛び散って大変と敬遠されがちだけど、ビニール袋に入れて、袋の中でピーラーを使えば簡単にツルツルに。ウロコの取り忘れなんて絶対あり得ない。アワビはタワシで洗う。まわりの黒いところは、タワシでゴシゴシ洗うんですよ。水揚げしたてのイカなんかは、さばいているときに「ピタッ」と吸盤がくっついてきて、恐る恐る「ご入刀」。小さなイカならともかく、まな板に「どん」とのったイカはやっぱり迫力があります。でも、命を頂いているんだな、としみじみ思ったりしてね。

 シングルペアレントが少なくない割に、「ひとり?そりゃまた…えらいこった(大変でしょう)」と言われるのは島の日常茶飯事。「嫁は?」「結婚は?」とうるさく言われても、軽く流せる。料理をつくりはじめたのが10代半ばだからか、別に「おひとりさま」でも全然困らない。ペットじゃあるまいし、餌をじっと待っているのは耐えられない。
実家に一時帰国してもご飯を作ることがある。キッチンに立たないとすっかり落ち着かなくなってしまったようだ。母が作るのを見ながら覚えた料理もある。「リンゴのコンポート」はいつだったか一緒に作って覚えた。仕上げに自分で作ったフレークソルトをふりかけると、超おいしくなる。つまり、小説じゃないけど、たぶんキッチンが好きなんだと思う。

 そんなこともあって、不意に母から電話が「チンジャオロースーの素材を集めたが何か足りない」「サバの味噌をうまく作るにはどうるすのか」「実家周辺でおすすめのお店はないか」など、お料理110番的な電話がかかってくることもある。普通、逆なんじゃない?と思いつつも、案外料理で頼られて嬉しかったりして。「美味しかった」と言われると、やっぱりまた作りたくなりますからね。と同時に、「美味しいものは美味しい」と家の中でもきちっと言うことが大切なんだと思う。まずいという言い方は宜しくない。「ちょっと薄いね」とか、表現はあくまで控えめであるべきだ。一人でも二人でも三人でも、家事っていうのは気力だ。気力を高めるために良い暮らしの道具を選ぶ。手仕事の器を買い出したのは、その辺にも理由がある。

 おひとりさまの離島、そろそろ6年目になる。オーブンと蒸し器が欲しい。