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隠岐國風土記

隠岐からパリへ

隠岐からパリへ

2010年10月13日
語り手:田中浩司

ところで、わたしは塩を作っている。しかし、厄介なことに塩の用途は天文学的な数だけあり、用途の全体像を把握することがとても難しい。調理用に限っても、ごく大雑把に和洋中を見ただけでも相当異なる。湯木貞一は「日本料理はだし」「西洋料理は塩胡椒」と言い、辻静雄はそれに同意したことからも、少なくても日本料理と西洋料理で根本的に塩使いや位置付けが違うことがわかる。ちなみに、ジョエル・ロブションは初来日した時に精製塩しかなくて苦い(塩辛い?)思いをしたこともあり、「日本人は塩を理解していない」とも言い放っている。この違いは漁食・肉食とも関連していて、気候・風土の違いを考えさせられる。

人伝いに隠岐からパリに塩が運ばれることもある

 

レヴィ=ストロースが「トーテムは考えるのに適している」と言ったように、「塩もまた考えるのに適している」。塩を考えるのは作業場よりもキッチンやテーブルの方が多く、用の現場から作業へのフィードバックの割合が多い。極めて理論的な仕事だと思う。塩を作ること作業自体は簡単だ。誰でも出来る。むしろ、適切な用途を想定して、ベストなものを作ることの方がよっぽど難しい。塩の用途の全体像を理解するのは無理でも、用の現場からものを考えようとはしているのだ。例えば、和食を作ると出汁を引くことに最大の注意を払うし、逆にイタリア料理などでは塩胡椒に注意が向くという風にやはり作るものが違うだけで、塩の登場回数も劇的に変わってくる。近年、「塩」食品が流行しているのも明治からの洋風化の到達点のひとつなのかもしれない。お付き合いしている料理・食品関係者もお醤油屋さんなどを除くと、洋食関係者が多いのも示唆的だ。

海士乃塩と国産丸大豆で仕込んだ醤油を醸造する島根県雲南市三刀屋の紅梅しょうゆさん

 

ごく最近、フランス料理研究家の上野万梨子先生と知り合いになり、トントン拍子で今月田園調布にある先生の食のギャラリーでイベントをすることになった。ご存じの人も多いだろが、フランス料理で基本的に使われる塩は天日塩(風と日光で製塩する方法)のゲランドが多く、有塩バターに練り混まれて、ブルターニュ地方料理の重要な素材にもなっている。ただ、日本の塩のニーズが皆無な訳でもなく、その証拠に上野先生も「これはパリでも売れます」と断言されていたし、フランスでもカマルグの塩からは実際に取引のオファーをもらったこともあるので、フランスでの市場価値も少し見えている。名前は失念してしまったが、フランスのミシュラン三ツ星シェフからも絶賛されたこともある。フランスではゲランドだけ、というのは少し誤解のようだ。貿易実務的な点がクリアーされれば、フランスも市場になりうる。

東京都田園調布にある上野万梨子先生の食のギャラリー「リブレ」

 

良い仕事をしている人と出会うために、良い仕事をしなくては、と思う。

 

●つかの間のマルシェ
月日:10月24日(日)11:00〜
場所:上野万梨子の食のギャラリー「リブレ」
つかの間マルシェは作り手直売の小さな厳選マルシェです。
詳しくはリブレHP http://www.rizble.jp/index.html で。